
新しい商材の取り扱いを決めて、契約も研修も済ませた。それなのに、3か月経っても受注はゼロ。営業メンバーに聞くと「まだ既存商材で手一杯で」と返ってくる——。こんな状況に心当たりのある方は、決して少なくないのではないでしょうか。
新しい商材が売れない原因を「商材が悪かった」で片づけてしまうのは、少しもったいない話です。実際には、商材そのものより社内への展開のしかたでつまずいているケースがかなりの割合を占めます。営業現場からすれば、新しい商材は「慣れない・売り方がわからない・売れる保証がない」という三重苦を抱えた存在です。放っておけば、後回しにされるのは当たり前とも言えます。
この記事では、新しく取り扱いを始めた商材を営業チームにきちんと定着させるための手順を、6つのステップに分けて解説します。すでに商材を導入して伸び悩んでいる方はもちろん、これから新しい商材を増やそうとしている方にも、そのまま使える内容にまとめました。
<目次>
- 新しい商材を営業チームに定着させる方法とは?進め方の全体像
- ステップ1:なぜこの商材を扱うのかを、一文で言語化する
- ステップ2:最初に狙う顧客を「既存顧客の中から」絞り込む
- ステップ3:営業資料とトークの型を、教育より先に用意する
- ステップ4:まず1人が売り切って「売れた型」をつくる
- ステップ5:成功事例が自然に回る共有の仕組みをつくる
- ステップ6:3か月ごとに数字で振り返り、商材構成を見直す
- 社内展開でつまずきやすい3つのポイント
- まとめ|定着するかどうかは「商材選び」の段階から決まっている
新しい商材を営業チームに定着させる方法とは?進め方の全体像
まず押さえておきたいのは、新しい商材の社内展開は「一斉に始めない」ほうがうまくいくということです。全員に同時に周知して、全員に同時に売ってもらおうとすると、誰も本気で取り組まないまま自然消滅していきます。
定着に成功している会社の進め方は、おおむね次のような流れになっています。
- 扱う理由を明確にする(なぜ今、この商材なのか)
- 狙う顧客を狭く絞る(誰に、どの場面で提案するのか)
- 売るための道具を先に揃える(資料・トーク・想定質問)
- まず1人が売り切る(成功パターンを1件つくる)
- その型を横展開する(共有の仕組みに乗せる)
- 数字で振り返り、続けるか見直すかを決める
ポイントは、「教育」から始めないことです。多くの会社が最初に社内研修を実施しますが、売れた実績がゼロの段階で教えられる内容は、メーカーから受け取った説明の焼き直しにしかなりません。まず1件売って、そこで得たリアルな情報を教材にしたほうが、はるかに早く定着します。
ステップ1:なぜこの商材を扱うのかを、一文で言語化する
最初にやるべきは、資料づくりでも研修でもなく、「なぜこの商材を扱うのか」を一文にすることです。
営業メンバーが新しい商材を後回しにする最大の理由は、優先順位がわからないからです。「上が決めたから」という説明では、既存の売れる商材を差し置いて時間を割く理由になりません。
言語化の切り口としては、次のようなものが使いやすいでしょう。
- 収益の安定:単発売り切りの商材が多いので、毎月積み上がるストック型を1本持ちたい
- 失注の回収:予算が合わずに失注していた層に、価格帯の違う選択肢を出せるようにしたい
- 接点の増加:既存顧客ともう一度会う理由をつくり、関係を切らさないようにしたい
- 入口づくり:単価は低いが導入ハードルが低く、新規開拓の入口として使える
この一文が決まると、後のステップの判断がすべてラクになります。「誰に提案するか」も「どう説明するか」も、この目的から逆算できるからです。逆にここが曖昧なまま進めると、現場は「とりあえず全員に案内してみる」という一番成果の出ない売り方に流れてしまいます。
ステップ2:最初に狙う顧客を「既存顧客の中から」絞り込む
新しい商材を新規顧客に売ろうとするのは、初めて登る山でいきなり冬山を選ぶようなものです。商材にも顧客にも慣れていない状態で、成功確率は極端に下がります。
最初のターゲットは、すでに関係ができている既存顧客の中から選ぶのが鉄則です。具体的には、次のような条件で顧客リストを絞り込んでみてください。
- 直近1年以内に取引があり、担当者と気軽に話せる関係にある
- 新しい商材が解決するはずの課題を、実際に抱えていそうである
- 決裁までのルートがすでにわかっている
- 断られても取引が壊れない程度の信頼関係がある
この条件で残るのは、おそらく数社から十数社程度でしょう。それで十分です。むしろ、ここで100社のリストをつくってしまうと、一件あたりの準備が浅くなり、断られた理由も蓄積されません。最初は「なぜ断られたか」まで聞ける相手を選ぶことのほうが、はるかに価値があります。
ステップ3:営業資料とトークの型を、教育より先に用意する
「営業メンバーが動かない」と悩む会社の多くは、動くための道具が足りていない状態にあります。メーカー提供のパンフレットだけを渡して「あとはよろしく」では、現場は動きようがありません。
最低限、次の3点を先に用意しておきましょう。
- 1枚の提案概要:誰のどんな課題を、いくらで、どう解決するのかを1枚にまとめたもの
- 切り出しトーク:既存顧客との会話の中で、自然に話題を出すための2〜3行の言い回し
- 想定質問と回答:価格、導入の手間、他社との違い、実績の有無など、必ず聞かれる質問への答え
特に見落とされがちなのが、2つ目の切り出しトークです。既存顧客への提案は、あらたまった商談の場ではなく、日常のやりとりの中で始まることがほとんどです。「そういえば最近、こういうご相談が増えていまして」と自然に触れられる一言があるかどうかで、初期の提案件数は大きく変わります。
実績がまだない段階では「他社さんの導入事例は?」という質問に答えられません。その場合は正直に、「当社としてはこれからお取り扱いを始める商材なので、御社のご意見を伺いながら進めたい」と伝えるほうが、無理に取り繕うより信頼されます。
ステップ4:まず1人が売り切って「売れた型」をつくる
ここが、定着するかどうかの分かれ目です。全員で始めるのではなく、まず1人が最後まで売り切ることを目指します。
担当する1人は、必ずしも成績上位者である必要はありません。むしろ、次のような人が向いています。
- 新しいことへの抵抗が少なく、試行錯誤を面白がれる
- 既存顧客との関係が良好で、気軽に相談を持ちかけられる
- やったこと・言われたことを記録に残す習慣がある
- 社内で発言力があり、他のメンバーが話を聞く
この1人が受注に至るまでの過程で、次のような情報が必ず集まります。どんな切り出し方で興味を持たれたか、どこで話が止まったか、いくらなら決裁が通ったか、導入後に何を聞かれたか。これらはメーカー資料には絶対に載っていない、自社にとっての一次情報です。
最初の1件が出るまでは、他のメンバーには「まだ本格展開はしない」と明言しておくのがおすすめです。中途半端に全員に案内すると、うまくいかない体験だけが社内に広がり、「あれは売れない商材だ」という空気ができてしまいます。
ステップ5:成功事例が自然に回る共有の仕組みをつくる
1件目が出たら、いよいよ横展開です。ただし、ここで「成功事例発表会」を1回開いて終わりにしてしまうと、内容はすぐに忘れられます。
定着させるには、日常の業務の流れの中に共有が組み込まれている必要があります。難しいことをする必要はなく、次のような小さな工夫で十分です。
- 既存の会議に5分枠をつくる:週次の営業会議の冒頭に、新商材の動きを話す時間を固定で設ける
- チャットに専用の場所をつくる:提案した内容と反応を、一行でいいので投稿するルームを用意する
- 断られた理由も歓迎する:受注報告だけでなく、失注理由の共有も同じ価値があると明言する
- 資料を更新し続ける:出てきた質問を、その都度「想定質問と回答」に追記していく
特に重要なのが3つ目です。新しい商材の立ち上げ期は、成功より失敗のほうが圧倒的に多いのが普通です。失注報告が出しづらい空気をつくってしまうと、貴重な情報が共有されないまま、各自が同じ失敗を繰り返すことになります。
また、評価のしかたにも一工夫あると効果的です。立ち上げ期は受注件数だけで評価すると誰も手を挙げなくなるため、「提案した件数」も評価対象に含めるといった配慮があると、動きやすさが大きく変わります。
ステップ6:3か月ごとに数字で振り返り、商材構成を見直す
最後は、定期的な振り返りです。感覚ではなく、数字で判断できるようにしておきましょう。見るべき指標は、そう多くありません。
- 提案件数:そもそも提案されているか(ゼロなら定着以前の問題)
- 提案率:営業メンバーの何割が、実際に1件以上提案したか
- 成約率:提案のうち何件が受注に至ったか
- 受注までの期間:既存商材と比べて時間がかかりすぎていないか
ここで大切なのは、数字が悪かったときに、原因を「商材」と「進め方」に切り分けることです。
提案件数自体が少ないなら、それは商材の問題ではなく社内展開の問題です。ステップ1〜3のどこかに戻る必要があります。一方、提案は十分にされているのに成約率が極端に低い、あるいは顧客の反応そのものが薄いのであれば、商材と自社の顧客層が合っていない可能性を疑うべきでしょう。
後者だと判断できたなら、粘り続けるより取扱商材そのものを入れ替えるほうが健全です。合わない商材に社内のエネルギーを注ぎ続けることは、本来売れたはずの機会を失うことでもあります。
社内展開でつまずきやすい3つのポイント
最後に、多くの会社が共通してつまずくポイントを3つ挙げておきます。
1つ目は、キックオフだけ盛大にやってしまうこと。導入時に大々的な説明会を開いても、その後のフォローがなければ熱量は2週間で消えます。大切なのは初日の熱量ではなく、3か月後にまだ話題に上っているかどうかです。
2つ目は、既存商材との優先順位を決めていないこと。「両方がんばろう」は、実質的に「新しいほうは後回し」を意味します。「今月は既存顧客への訪問時に必ず一度は触れる」といった、行動レベルの具体的な約束にまで落とし込みましょう。
3つ目は、そもそも自社に合わない商材を選んでいること。これは進め方でカバーできる範囲を超えています。既存顧客層と提案先が重ならない、単価が既存商材と離れすぎて営業の感覚が合わない、サポート体制が薄く受注後の負担が重い——こうした商材は、どれだけ丁寧に展開しても定着しません。
だからこそ、取り扱いを決める前の商材選びの段階で、複数の候補を比較しておくことが何より重要になります。
まとめ|定着するかどうかは「商材選び」の段階から決まっている
新しい商材が営業チームに定着しない原因は、多くの場合「営業メンバーのやる気」ではなく、進め方の設計にあります。あらためて6つのステップを振り返ってみましょう。
- ステップ1:なぜこの商材を扱うのかを一文で言語化する
- ステップ2:最初のターゲットを既存顧客の中から絞り込む
- ステップ3:資料・切り出しトーク・想定質問を先に用意する
- ステップ4:まず1人が売り切り、売れた型をつくる
- ステップ5:日常業務の中に共有の仕組みを組み込む
- ステップ6:3か月ごとに数字で振り返り、商材構成を見直す
そして、この6ステップの土台になるのが商材選びそのものです。自社の顧客層・営業スタイル・サポート体制に合った商材であれば、社内展開は驚くほどスムーズに進みます。逆に、合わない商材はどれだけ丁寧に展開しても現場に根づきません。
今扱っている商材が思うように伸びていないなら、進め方を見直すと同時に、他にどんな選択肢があるのかを一度確認してみることをおすすめします。比較する候補を持っておくことは、それ自体が判断の精度を上げてくれます。
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